こんにちは。Ichi-Proです。
労働時間の海外比較について考察し、まとめてみましたので、
以下にログとして残します。
まじめなので、興味ない方はスルーでお願いします。
長い日本の労働時間
(2013年データブック国際労働比較、独立法人労働政策研究・研修機構P188)
図1一人当たり平均年間総実労働時間(就業者)
(2013年データブック国際労働比較、独立法人労働政策研究・研修機構P189)
日本人は良く働いているイメージが外国人にとってあるが、それは実際の所、事実か否かをデータから検証する。図1は、1980年~2010年の一人当たり平均年間総実労働時間を各国間で比較している。
1990年頃までの日本は、海外諸国に比べて約200~300時間多く労働していた事実がある。しかし、「2011年には1728時間となった。海外諸国についても現象横ばい傾向となっており、2011年イタリアで1774時間、アメリカで1787時間、イギリスで1625年、フランスで1476時間、ドイツで1413時間、スウェーデンで1644時間となっている。」(2013年データブック国際労働比較、独立法人労働政策研究・研修機構P18)、少しずつ日本は、海外諸国との労働時間水準の差を埋めつつある事がわかる。しかし、依然として労働時間が多いという事実には変わりがなさそうである。
日本人の労働時間が多い要因(①有給休暇)
図1で海外諸国と比較して日本人の労働時間が多い事は、確認することができた。図2を見て頂くと年間休日は海外諸国と比べて少ないわけではない。2011年の日本の年間休日数は、137.3日で、イギリス136.7日とほぼ同水準となっている。年間休日日数がもっとも多いのは、ドイツ144日で、イタリア141日、フランス139日がこれに続いている。週休日104日(週休2日)は各国同じで、日本は祝日が多いため週休日と祝日合計は年間119日の休日がある。むしろ5~7日海外諸国より休みが多い事になっている。大きく変わるのは、有給休暇である。他に比べて日本の有給休暇は、18.3日であり、一番有給が多いドイツの30日と比較すると12日も差があることになる。この有給休暇の多い少ないが日本人は働きすぎ、外国人は休みすぎというイメージとなっている一つの要因だと考える。また、気をつけて欲しいのは、図2のデータは会社から社員全員が平等に与えられる有給休暇日数であり(労使協約で合意した平均付与日数)、すべて消化できているか否かは別問題である。有給休暇取得率については、図3を御覧頂きたい。
図2 年間休日数 (2011年)
(2013年データブック国際労働比較、独立法人労働政策研究・研修機構P190)
図3は、有給取得日数とその取得率を国ごとにグラフにしたものである。これによると海外諸国の有給取得率は良好であることが分かる。スペイン、ブラジル、イギリス、シンガポールは100%。ドイツ、アイルランドが95%。アメリカ83%、イタリア71%となっている。一方日本は、有給休暇取得数の半分にも満たない38%である。有給取得数が元々、他と比べて少ないことに加えて取得率も低いということは休み下手、つまり、働きすぎということになる。ここで、なぜ有給が与えられているのにも関わらず、実際は取得できていないかという疑問が湧いてくるが、それについては、図4を見て頂きたい。
図4は、有給休暇を消化しない日本の主な理由である。その中で1位(同僚から否定的な見方をされる)と4位(上司が有給取得に関して否定的)が理由になることは、外国人からすれば信じられない事実かもしれない。有給休暇とは、心身のリフレッシュを目的とした制度のはずであり、一人一人に与えられた個人的な権利である。しかし、日本の場合この個人的な権利が、同僚から否定的な見方をされ、上司が有給取得に関して否定的なので行使しづらい状況が現実にあることが分かる。これらは、図4のとおり、日本をはじめとするアジア諸国に見られる現象であるようだ。他人の目をとても気にし、それが自分の権利までも行使しなくなるほどの力がある。
図3 有給休暇取得日数と取得率
(世界22カ国 有給休暇・国際比較調査 株式会社エクスペディア)
図4 有給休暇を消化しない理由
(世界22カ国 有給休暇・国際比較調査 株式会社エクスペディア)
日本人の労働時間が多い要因(②残業)
前項では、有給休暇日数と取得率の低い事が日本の労働時間が多い一つの要因と説明した。次に労働時間を多くさせるもう一つの要因である「残業」について検証する。図5は、日本、アメリカ、フランス、韓国の生活時間を平均化して比較したものである。 3ヵ国の男性で比較すると、自宅を出る時刻や出社時刻にはほとんど差がない。ところが、帰宅時刻になると2時間近い差が生じてしまう(法定労働時間は日本・アメリカは週40時間、フランスは35時間)。一番大きい差は残業時間であって、日本はアメリカやフランスの3倍近い残業を行っている事実がある。
図5 生活時間(正規雇用者)
(2013年データブック国際労働比較、独立法人労働政策研究・研修機構P274)
日本企業が労働者に求めるもの
有給休暇が取得しにくく、残業が多いのは日本人だけが忙しいからだと結論付けるのは難しい。そこで、有給休暇を取得せず、残業をしなければ行けない状況があるのではないかと予測するのが自然である。そうしなければいけない状況を把握することで、日本企業が労働者に何を求めるのか見えてくる。
共同体としての企業
日本の企業の仕組みは欧米の企業とはかなり異質のものであり、いくつか特徴がある。
<特徴として、終身雇用と年功序列賃金を軸とした日本型の雇用慣行がある。これは、欧米企業が仕事単位で雇用と解雇を行い、仕事に対応して賃金を定めているのに比べて異質なものとなっている。また、日本企業は資本と経営の分離が進み、株主代表として外部取締役がほとんどいないことである。会社の経営陣は、内部出身者よって構成されている。このシステム下では、従業員は滅私奉公的に企業に忠誠を尽くす事によって、企業で昇進し、経営陣に入る事ができる。>(1940年体制 野口 P95)これは、日本企業は株主に所有され利潤追求を第一に考えるというよりも、従業員の運命共同体的な性格が強い。つまり、日本における企業と従業員との関係は、単純な一時的な労働契約ではなく、個人の生活の全てが会社の盛衰に依存しているのである。
このような日本企業の特殊性についてドーアは、1960年代末の日本とイギリスの工場を従業員意識や雇用慣行などの観点から比較し、日本企業の特徴が終身雇用と年功賃金、企業内訓練と柔軟な職務内容、管理者従業員間の平等主義などの雇用慣行にあるとした。これを「組織志向」と特徴付けし、イギリス企業が「市場志向」であると対比した。(野口 P97)
企業活動が市場志向型の社会では、企業間で労働力の移動が活発に起きる。すなわち、会社組織の色々な階層で頻繁に新しい人が入社し、その一方で自発的、強制的な退職が生じる。会社による人事評価は個人の業績中心で行われる。個人の業務・責任範囲の明確化に力が入れられる。その結果、従業員は明示された業務に専念し、それに超えて企業活動に参加したり、貢献したりには消極的になる。実際のところ、会社も期待することはない。企業が市場志向型の社会では、会社のメンバーという言葉で人々が思い浮かべるのは株主である。会社は株主の財産とみなされており、社長は経営スキルを見込まれて、株主に雇われた株主の代理人である。株主の代理人なので株主に利益をもたらせば、巨額の報酬が認められる。報酬に従業員の給与水準とのリンクはない。代理人としての経営スキルを発揮し、従業員の人数や給与のカットに成功して会社利益を増やせば、株主に賞賛され社長として報酬が増える。もちろんその逆もしかりで、株主の不興をかえば解雇となる。
組織志向型は、労働者は企業間の移動が少なく、ほとんどの社員は会社組織のヒエラルキーの最下層に新入社員として入ってくる。会社も従業員も長期間の雇用を前提にしており、昇進を通じて幹部社員が養成される。人事評価はチームとしての成果が強調される。チームへの貢献が重視され、研修や現場での指導が当然とされている。従業員の幅広い企業活動への参加が期待されており、実際も活発である。組織志向型の会社の構成員は、従業いんである。会社は従業員のコミュニティであり、社長や経営陣はコミュニティのリーダーとして指導力が期待される。一方報酬は巨額にならない。一般の従業員とかけ離れた報酬を手にすることは、従業員から正当なリーダーとしての資格を失わせるからである。(社長はだれのものか 渡辺茂 P67)
日本は日本型といわれるシステム(終身雇用、年功序列型賃金)と組織志向型により有給休暇の低取得率、残業が多い状況があることに納得がいく。日本のこれらのシステム下においては、上司への従順な態度、個人よりも会社の要求を優先する態度が評価されやすくなるということである。
たとえば、年功賃金とは、勤続年数の増加につれて賃金額が増加することを意味するが、これは組織にとどまる場合に限定されている。転職して他の企業に移ったとした場合、今までの積み上げてきた賃金上昇が転職した企業で継続される事はない。ゼロからスタートとならないとしても、賃金は下がってしまう。年功序列は個別企業に限定されたものなので、日本において転職することは賃金の面で容易ではないことが分かる。これは現在の会社にとどまることを事実上強制していることになる。実際、転職経験有無で生涯賃金に差が出ている。大卒男性転職有り:2億5180万円、転職無し:2億7580万円 (独立行政法人労働政策研究 研修機構ユースフル労働統計-労働統計加工指標集2012年)日本おいて入社から、定年まで同一企業で勤める事は、生涯賃金が一番高くなることになる。また、日本において転職市場が海外諸国に比べて開かれていない為、転職する為には非常に多くの労力や費用が必要になる。このような状況下では、転職しようともできない。したがって会社から多少納得がいかない事を強制させられても拒否するわけにはいかない。単身赴任や長時間の残業を命じられても受けいれなければ行けない。というより、受け入れた方が良いという判断になる。軍隊的な縦社会システムが出来上がり、部下の忠誠心が試されることになりやすい。上司より先に帰ることが許されないような雰囲気が、自然に作られてしまうのである。たとえば、提示後帰宅した部下に「あいつはどこへ行った?」と、
残っている部下に「遅くまでご苦労さん」と労ったりするだけで、その組織ではつきあい残業が「評価されてしまう」のである。こういった、遅くまで残っている社員を評価してしまう誤った精神論は、極めて罪深いものがある。加えて、現行の法体系の下では、法定労働時間を超えた残業には割り増し
賃金が支払われるので、「つきあい残業」には、インセンティブも(追加残業代が)また働くことになってしまう。これでは残業時間が長くなることは当然で有給休暇など私用でなおさら取得しづらくなる。
日本の労働生産性
これら日本雇用システムの根本には集団主義があるとの考えを示す論者は多い。<集団主義は一般に、集団の利害は、そこに所属する個人の利害に優先するという考え方である。日本企業がこのような集団優先の理念の下に行動する>(日本企業における和の機能 山口 P61)しかし、最近は企業経営が難しい時代になっており、良いもの製造すれば売れる時代はバブル崩壊後終わってしまった。日本の雇用慣行である、終身雇用や年功序列型賃金は企業が永年成長し続ける事が前提条件のシステムである。その条件を満たせなくなって来ている以上、何かを変えて行かなければ企業の存続はあり得なくなってしまう。そこで、労働生産性に着目してみる。図6は海外諸国と日本の労働生産性の比較である。
図6 公益財団法人日本生産性本部 世界の労働生産性比較
上記データを見ると日本の労働生産性は、21位となっている。これは、先進国の中で比較すると非常に低い値である。低い理由にはいくつか理由はあるが、日本型雇用システムが大いに関係しているのかと推測する。以上見てきたように、集団主義下における日本の雇用システムは非常に内向きであり、あまり機能的であるといえない。企業とは価値を生み出しそれを世に出す事を本来主な目的としている。しかし、先ほどのつきあい残業のような例が存在するように日本の場合、無駄を一掃するだけでも生産性向上が見込まれる。
外国人労働者がもたらす変化
日本の雇用システムは誰か一人の力で形成されたものではない為、そう簡単に変える事はできない。日本人は、日本の雇用システム、組織志向型であることは当たり前であるとした上で働いている。その為、無駄が多く労働生産性が海外に比べて低い事などほとんど知らない事が多い。井の中の蛙の状況である。日本人は、企業のような集団を形成すると、外に閉じた村落共同体のようなものを形成することが多く、その中では個々の価値観が極めて均一化され精神的な緊張感が低く、心地よい環境になるとされている。(ホワイトカラー生産性向上のための業務確信 日本能率マネジメントセンタ 1994年)
つきあい残業もおかしな事だと認識しつつも皆が受け入れている為、存在している。有給休暇も権利であることは知っているが、皆に休んで迷惑をかけることができない、上司からの評価が下がるとして取得しない。グローバルな視点から見ればこれはすぐにおかしい事であり、無駄であると評価できる。外国人労働者は、その日本で蔓延する無駄の数々を日本人に気づかせることができる。外国人労働者が日本企業に入れば入るほど、日本企業は今までのやり方が通用せず、行き詰ることになると感じるはずである。なぜなら、そもそも日本的システムの概念の無い外国人に日本のやり方を強制し適応するなどできないからだ。外国人にとって、つきあい残業が評価され、有給取得をしないことが評価されることがなぜか、全く理解できない。これからどんどんグローバル化が進行していく中で、外国人労働者が日本企業で働くことが増えていくことは必至である。このような状況下で日本的システムを継続して企業が発展存続できるとは思えない。必然的に労働生産性を高めるようなシステムを構築していかなければ行けない。その為には、日本の今まで形成してきた日本的雇用システムに労働生産性を向上させるような機能を組み合わせ、日本人に合うようにアレンジした雇用システムを形成していく必要があるのではないか。逆に、市場志向型にいきなり日本人が適応させるのも難しいと考えるからである。グローバルな思考を入れ、労働生産性を高めるシステムを確立しつつ、日本独自のシステムを再構築していくことは日本にとって重要だと感じる。
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